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開業記録

ケーキ屋を開業して3年、私がお店を続ける理由

こんにちは、Yokoです。神奈川県藤沢市、江の島近くの「片瀬」という街に、小さなケーキ屋を2021年3月にオープンしました。自身の小麦アレルギーをきっかけに、全て日本の有機米粉で焼いています。看板商品は何と言ってもキャロットケーキとブラウニー。コロナ渦で軒並み周りのお店が廃業する中、ひとり開店したお店。「3年続けられるか」、というのは私の中では大きな指標でした。「個人経営のお店は長く続かない」ことを重々承知の上、資格も経験もない私がケーキ屋を開業した3年間。辛くて辞めたくなったこともあったけれど、何とか続けた理由、そしてこれからも続ける理由をここではお伝えします。

とにかく大変だった1年目

3年前の3月31日にオープンしたお店が、もうすぐ3周年を迎えようとしています。短かったのか、長かったのか、自分でもよく分かりません。とにかく、「石の上にも三年」と、3年を1つの節目として続けてきました。振り返ると、1年目は「とにかく生きているだけで必死」状態。お店を開けること、とにかくオープンさせることだけに集中して走り続けていた私は、開店後のことを何も考えていませんでした。営業日や、製造のリズムすら、本当に何も考えていなかったんです。というか、開店準備のドタバタの中、そんな未来を考える余裕は一寸たりともありませんでした。

開店日、お客様にケーキを渡している様子
開店した日の店頭

お客さんが来るのかどうか、不安を抱えながらオープンしたお店です。コロナ渦真っ只中というのが幸いしたのか、片瀬のご近所さんがケーキ好きだからか、とにかく想像を超える来店者数に、私はただただ、圧倒されていました。そして、慣れない大きなキッチンでの製造に戸惑い、開店準備のストレスと製造の疲労が蓄積し、開店後1か月余りで、お店でパニック発作を起こしてしまいます。まさかの救急車沙汰でした。イギリスでも発作を起こしたことがあるので、「あ~、またやっちゃった!」というのが、その時の正直な感想です。その節は皆さんに大変ご心配をおかけしました。

そこからは心理カウンセリングを受けながら、自分の心と向き合う、ということを、ひたすら続けた1年目だったように思います。経験した方はご存知だと思うのですが、パニック発作は1回やってしまうと、「また発作が起こるかも」という恐怖がしばらく付きまといます。お店でお菓子を作りながら、お客さんとお話しながら、その恐怖はいつでも襲ってくるので、そんな理由から、1年目は「立ってるだけで精いっぱい」だっという訳です。

今だから言えることですが、たくさんケーキを焼いたものの、営業日に出勤する途中で足がすくんでしまって、臨時休業する、なんてことも何回かありました。そんな訳でお店は「不定休」とし、私が確実に出勤できそうな日の朝に、インスタで「今日営業します」と告知するというスタイルを続けていました。今、その時のお客さまの気持ちを考えると、本当に、よく辛抱強く見守ってくれていたなあと、感謝の気持ちしかありません。そして、開店当初からずっと働いてくれているスタッフの彼女には、本当に心配と迷惑をかけたと思っています。彼女もまた、よく辞めずについてきてくれたなぁと、感謝の気持ちでいっぱいです。その当時は、お店を持ってしまったことを後悔したこともあるし、本当に辞めたいと思ったこともありました。もう誰かにお店を売るが、帰宅後の家族への口癖だった程です。

それでも3年間続けられた理由

でも、私は辞めずに続けました。何がそうさせたのか、その時はよく分からなかったのですが、まず、現実的に借金を返さなければいけないという事実がありました。何百万という大きな額を、どこかのパートをしながら稼いで返済するよりも、どうせなら好きなケーキ作りをしながらの方がまだいっか、という感覚です。そして、せっかくこんなに素敵なお店を作ったかんだら、もうちょっと堪能したい、というのもありました。設計、インテリア、家具全てに拘りぬいて作り上げたお店を、いとも簡単に手放すのはあんまりにも勿体ない。大きなミキサーも、タイル張りのキッチンも、憧れのショーケースも、もうちょっと使いたいな、という気持ち。そして最後に何より、やっぱり私はケーキ作りが好きでした。2年目も3年目も迷うことはたくさんありましたが、最後に行きつくところはやっぱり「この仕事が好き」だったように思います。

1つひとつ選び抜いたものばかり

最初の2年くらいはその「好き」だけが支えだったかも知れないのですが、これが少し変わってきたのが、3年目かなと思っています。ただ自分の好きなこと、やりたいことを追い求めていた私ですが、何かそれだけではない、違うところに、私がお店を続ける原点のようなものを見つけたのが、ここ最近のことです。変な話かも知れないですが、お店を続けていて、疑問に思うことがあります。「私は、本当にキャロットケーキを売ってるんだろうか?」と。おいおい、どっからどう見てもキャロットケーキやん!と思うのですが、キャロットケーキの価値は、その本質は、一体何なんだろうと、2年目くらいから考えるようになりました。

その疑問に店主である私が答えられないのは、経営者失格かも知れないです。だけど、その答えを教えてくれるのが、毎日(は開いてないですが営業日に)来て下さるお客さんだということに、最近気づきました。美味しいもので溢れている世の中、特に日本で「美味しくないもの」を見つけることの方が難しい環境で、キャロットケーキが単純に「美味しいこと」は、そんなに特別なことでもない気がしています。

そして、食のビジネスでは「安くて美味しくて早くて便利」が良しとされる中、当店は「美味しい」以外はその真逆です。高いし、時間かかるし、駐車場もなくてめちゃくちゃ不便。だけど、それ以外のどこかに価値を感じて下さっているお客さまが、何度も足を運んで下さっている。そして、厨房で作業をしている私に、「もう本当に美味しかった!」と、感動した様子で伝えて下さる。摂食障害の娘さんが食べたいと言うので買いに来て下さるお母さん、受験真っ只中の息抜きに来て下さる親子、お喋りしながらケーキを食べて本当に楽しそうなおばあちゃんたち、同僚の誕生日にケーキを買って下さる方、頑張った自分へのご褒美に、と目をキラキラさせて来店される方。その一人ひとりの中に、何か言葉で上手く言えないけれど、私がお店を続ける「何か」、それがある気がしています。本当に全然上手くまとめられないですが、前よりも少し、それが掴めてきた様に思います。

5年後、10年後も続けるために思うこと

こうして3年目を迎えつつある今、「私は・自分が」と利己的でしかなかったお店が、「お客さまは・私たちは」と、利他的な視点も持ち始めた、というのが大きな変化かなと思っています。そしてその視点、その在り方こそが、3年目という節目を超えた後、5年後、10年後へと続く鍵になるような気が、どことなくしています。お客さんは何を求めているんだろう、何に価値を感じるんだろう。それを自分の中だけで考えず、お客さん一人ひとりと向き合って見出そうとする、そんなお店でありたいと思っています。そして、私たち「働く人」も大事な顧客です。働く私たちは、何を求めているのか、何を喜びとするのか。その答えは、本でもない、ネットでもない、SNSでもない、私たちの中にしかないのだから、まず、今ここにいるスタッフと、今ここに立っている自分を、しっかりと偽りなく見つめることから、そこからスタートしたい。3年目という節目を迎えようとしている今、私はそんな風に感じています。

オープンの日のショーケース。キャロットケーキとブラウニー
開店当初から定番のキャロットケーキとブラウニー

これからも迷ったり、悩んだり、そんなことを繰り返しながらお店を「続ける」んだと思います。「これで良し」なんてことはきっとなくて、いつだって何か課題がある。それを考えて、解決しようとして、それを経て少し成長して、また何か課題にぶつかって。永久にその繰り返しだと思っています。そしてその繰り返しこそに、続けることこそに、自分やお店やスタッフの成長があって、そこに私は何よりもの喜びを感じている。その喜びは、ケーキを作っている時の喜びとはまた全然違う、人生そのものの歓びなんじゃないかなと、そんな気がしています。

支えてくれる人がいるから、続けられる

3年経ってやっとスタートラインに立てたYOKO BAKESです。これまでは年少・年中・年長さんの3年間で、ここから小学1年生。それこそ本当に幼稚園児の親の様に、温かく、辛抱強く、たっぷりの愛情を持って当店を見守って下さった皆さまへ。本当に本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。これは言っても言っても、言い尽くせません。そして、一緒に仕事をして下さってるスタッフの方々。たくさんある求人の中からこのお店を選んでくれたこと、そして続けてくれていることに、心より、感謝しています。本当に、ありがとうございます。そして何より私の側で、ずっとずっと私を見守り、支え、応援してくれている私の家族へ。本当に、ありがとう。

私からあなたへ、溢れんばかりの愛を込めて
2024年3月 店主Yokoより

この記事の著者

Yoko Wspanialy

1983年2月生まれ。奈良県出身、大学で上京。大学院からロンドンへ渡り、言語聴覚士となる。留学先のデンマークで出会ったポーランド人と結婚し、現地の病院にて7年勤務。イギリスで娘と息子を出産し、産休中に上司に頼まれてウェディングケーキを作ったのをきっかけに、ケーキ作りを仕事にしたいと願うようになる。BBCのブリティッシュベイクオフに応募し、最終選考まで残る。2016年末に日本へ引っ越し、現在鎌倉に在住。小麦アレルギーの診断を経て米粉に転換し、2021年に3月に実店舗をオープン。その開業記録や、ケーキをビジネスとして続けることのあれこれを書いています。

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